「雨に濡れて」 



彼が仕事を終わらせたのは、社交界へ出向かねばならない時間の
1時間ほど前だった。
盛装に着替え、馬車に乗り向かう先は確かエンドレイ公爵邸だっただろうか。
彼はぼんやりしながら、やっと片付けた書類を前にのびをした。
窓の外はもう暗く、空は濃い蒼を秘めて冷たく孤独な空気を運んでくる。

まだ一時間ある。

時計を見つめた彼は、ゆっくり後ろを振り返った。
彼女はソファーに座っている。
もたげた頭から、さらりと長い髪が垂れていた。
珍しく瞳をとじて眠っているようだった。
いつも、忙しく駆け回りとはいかないまでも、彼女の行動は素早く、
彼の前で眠ることは、ほとんどないに等しいことだったのに。

疲れているのだろうか。

と、彼は椅子の背もたれに片腕と顎を預けて、彼女を眺めていた。
視線を送ることで彼女が気づけば、起きているということだが・・・
全くの無反応だった。
エルゼリオはちいさくため息をつくと、彼女が自分のことに気づいてくれないのを少し寂しく思った。
けれど、自分の前でこんなに無防備でいてくれることは・・・

うれしかった。

今まで彼の気持ちを知ってから、彼女はあからさまに彼を避けた。
恥ずかしそうに、彼女が彼女自身の立場を強く意識していることを
常に感じながら彼は、時々昔の自分達を思い出さずにはいられなかった。
まだ、彼が子供だと彼女に思わせることで、そばにいられた頃の事を。

けれどどんなに優しい思い出も、過去という時間の流れには全てが逆らえない。
ただ、記憶の彼方で輝くか。
あるいは腐り、朽ち落ちていくかだけである。

部屋は暗い。
机の上のランプが薄ぼんやりと辺りを照らしている。
前かがみになって、眠っている彼女の姿は
蜜のような黄色い光に照らされて、温かみを増して感じられた。
部屋に明かりがないのは、おそらくあのお転婆そうな
新しい召使いのせいだろう。
ちゃっかり、部屋のシャンデリアに火をともすことを忘れている。

寝顔を見てみたい。

ふと思い立って彼はにんまりとした。
こんな機会はめったにないのだから。

いたずらっぽい笑みを浮かべて彼はそろそろと近寄ると、ゆっくりと彼女の横に座り
うつむいて眠る彼女の寝顔を覗こうとした。
表情は見えないが、少し苦しそうな寝顔だった。

何かがひっかかった。

そっと、髪に触れる。
もっと彼女の表情を見たくて、鼻先がフェイティシアの頬に触れるほど近づけた。



フェイティシアは眠りの中にいた。
どこか、ぼんやりとしたわけのわからないところを歩いているような感覚で。
出口がないことに、寂しさを感じる。
そんな場所にいるような気分だった。
体は冷たい。
そして言いようのない寒さに包まれている。
毛布もなくて、すべて灰色で凍ったその場所は、彼女をさらに深いところへと誘っていこうとした。
彼女はわけがわからず、歩を進めるしかなかった。

けれど、次の瞬間そばにちいさな火が灯ったような気がした。
頬に、軽い温かさが触れた。
体を包むような温かさがある。
その香りは、昔から知っているものだ。
彼女は、その火を見ようと、目を開いた。

目の前に、彼の顔があった。



彼女は目を覚ました。
と、
唐突に現状を理解すると
驚いた表情で隣の彼を意識し、すぐにソファーから離れようとした。

「だめ。」
と、低く唸って彼は強引に柔らかい手を掴む。
思っていたより熱くて、彼はびっくりした。

掴まれた手から、彼の体温を感じて彼女は逃げるのをやめた。
ここちよい。
体が寒くてどうしようもないところへ、彼の体温はすがりたくなるほど彼女が求めているものだった。
ほしい。その手を抱いて、眠りたい。
けれど彼は主人で、彼女は心寂しくなっている自分を恥じた。

「フェイティシア。手が熱いぞ。」
「!!」

唐突な言葉は彼の手を放すのに十分な恐怖をもってフェイティシアに届いた。
彼は、彼女が熱を出していることを知らないのだ。
そして、知ればもしかしたら彼は、仕事を投げ出すかもしれない。
そう考えて、彼女は頬を赤く染めた。

自惚れというものだと、気づいた。

心配してくれるかどうか、彼女にもわからない。
いつも心配はしてくれている。
「あの嘘」をついた日から、ずっとだ。
嬉しかった。
優しさが嬉しくて、けれど心はいつもちくちくと痛んだ。

けれど、この領地全てと彼女の存在を天秤にかけたとき
彼はどちらをとるのだろうか。
彼は、おそらく・・・。

私は召使いなのだから。

無言でその場を後にしようとする彼女に、
手を引き離された彼は、すかさず強引に彼女を抱きしめた。

放すわけにはいかない。
放すつもりは毛頭ないのだ。
仕事を終えたら・・・

「仕事を終えたら何かくれるっていっただろ。約束、守らないつもり?」

いつもより熱い彼女の体温を感じながら、彼は彼女の耳元で囁く。
吐息がかかり、酷く甘い刺激を体に感じてフェイティシアはぞっとした。
彼の体温が心地よい。
熱が酷くなったのか、体中が痛くて力が入らなくなっている。
強く引き剥がすことも、できなくなっていることに彼女は気づいた。

逆らうことが、できない。
ゆっくりと肩に手をまわされて、ソファーへ戻される彼女は、もといた位置に腰掛けた。
「そんなにオレのこと嫌いになったの?」
と拗ねて寂しそうに言われれば、どうしていいかわからなくなる。

隣の彼は、彼の言葉に珍しく無言な彼女をしばらくみつめていた。
いつもなら「そんな!」とすぐに否定する。
けれど、彼女は俯いたままだった。
では表情はと思い、覗き込むと顔をそらされる。
彼はそんな小さな反発に、ちょっと呆れてしまっていた。

「・・・もう、お出かけになられる時間なのではないですか?」

少し突き放す雰囲気をもった言葉。
初めてだった。いつもは、こんな風に彼女がいうことはない。
子供のころから。
それが・・・

なにかがひっかかる。

彼は、強引に彼女のひざに頭をのせるとソファーによこになり
彼女の顔を下から堂々と覗き込んだ。

突然の行動に、フェイティシアはどきりとした。
やわらかな金髪が膝に垂れて、微笑む彼を真正面から見つめる形になっている。
逃げることもできなくなった。
「まだ大丈夫。だからなんか頂戴。」
と甘えるように微笑んで、彼は手を伸ばす。
指が頬に触れ、額に触れて、長く繊細な彼女の髪を絡ませて後頭部へまわる。

大切なもの。
唇、を。

この体勢で。
と考えて彼女はどぎまぎした。
彼が奪うのではなく、彼女が頭をもたげろと彼の後頭部にまわした手は言っている。
勿論、「あげる」のだから、彼女から行動しなければ意味がない。
そう、彼は言っているようだった。

「ほら。」
急かして、まだかまだかと楽しそうに、彼は彼女の頭がもたげてこないか膝の上で待つ。
後頭部に感じる彼女のひざの感触はやわらかくて、
仕事を終えて疲れた彼にはちょうどよい心地だった。
どうしても、いたずらっぽい笑みを浮かべずにはいられない。

けれど、どこかでなにかかひっかかっている。

「あ、あとでじゃだめですか?本当に、仕事を終えたら、で。」
顔を真っ赤にして、助けてといわんばかりに彼女は恥ずかしそうに答えた。
こんな表情を見たくて、どうしてもいじめてしまう。
「・・・あとで?いまじゃなくて?」
拗ねて、けれどくすくす笑って彼は彼女の腰に手を回すと、
腹の辺りに顔をうずめてみせる。

子供のころときどき、耳をそうじしてほしいといっては、彼女の膝に頭をあずけていた。
眠ってしまうこともあったくらい、彼女の香りが優しくて
今のように顔をうずめたりした。
小さいころは、彼女も今ほどはしっかりとした体をしておらず
少女といった雰囲気を秘めていたけれど、
それでも彼は、彼女の膝に頭を乗せ、その腹の辺りに顔を埋めるのが好きだった。

彼女は、その様子を見て昔の彼を思い出していた。
子供のころ、よくそうしていた彼の癖。
今でも、残っている。

『フェイティシアはやわらかいね。気持ちいいや。』

嬉しそうに微笑んだ子供のころの彼と、今の彼が彼女の視界に同時に映った。
視点が定まらなくなってきている。
もう、どうしようもなく寒くて・・・。
こんなに彼は温かいのに、体だけどこか遠くへいきそうな感覚がある。
誰も手の届かない遠くへ。

ぽたり、としずくが彼の頬に落ちた。

エルゼリオは驚いた表情で彼女を見つめる。
微笑みながら彼女は、涙を流していた。

「どうか後で。もう、時間になりますから。」

何故涙を流しているのか、彼にはわからない。
どうしようもなく、何かがひっかかって。
彼は、「わかった。」とつぶやくと、少し困ったように微笑んで
彼女の膝から頭をあげた。
涙をぬぐってやると、思いのほか熱い頬に触れた。

「・・・フェイティシア?」

立ち上がってドアの前で、彼を追わずに座ったままの彼女に
声をかける。
「どうぞ、着替えてください。私はもう少しここに・・・。」
暗闇の中で、椅子に座る彼女はどこか別な空間の人間のように感じられる。
遠くに、感じた。

何かを認めたくなくて、彼は微笑むと部屋を後にした。
入れ違いに、ライジアが入ってきて、扉を閉めた。







「フェイティシアさま。別荘へ戻りましょう。おはやく!」
薬と水さしをこっそり持って、ライジアは素早く彼女に飲ませた。
額に手を当てると、恐ろしいほどの熱がある。
瞳は朦朧と鈍く光って、潤みながら微笑を絶やすことがない。

「大丈夫。見送らないと。エルゼリオさまを。」
「だめ!絶対ダメです!!もうご無理なさらないでください!
あんな何もわかってないひとのことばっかり考えて、体がおかしくなっちゃいますよ!」

すると、白い手がゆっくり伸びてライジアの腕をつかんだ。
その熱さに驚いて、彼女を見つめると哀しそうに微笑んでいる。

「私はあのかたの召使いなの。ライジア。だからお願い。そんなことは言わないで。」

そしてよろりと体をふらつかせて立ち上がると、ライジアはどうしようもなくて
ただ支えるしかないと彼女の体を抱いた。
「玄関に行きます。ライジア。エルゼリオさまのことあとは頼みますね。」

あと、だなんて。
そんなふうに言わないでくださいと、ライジアは思って言えなかった。

上手く彼女をエルゼリオに見つからないようにしながら、部屋から出して
ライジアは廊下をゆっくりあるいていくフェイティシアを見つめた。
そして部屋のほうへ急ぐと、エルゼリオの着替える部屋へと向かった。







「フェイティシア!?」
と、扉が開いたとたん呼びかけられて、ライジアはむっとした。
そして、すぐさまげんなりとした表情へ変わる彼をみて、彼女はもっとイラついた。
全く、この男はフェイティシアの苦労も知らないで、のうのうと社交界へ急ぐのだ。

そう思うと、全部ぶちまけてやりたい気分に駆られてしまう。

けれど、それではフェイティシアの今までの、彼を思う気持ちが
水の泡になってしまいそうで、それだけはとライジアは胆に命じた。
心配をかけずに、彼を送り出さねばならない。

全く、フェイティシアさまのことなんか、何も考えてないくせに。

主人とはそういうものだろうと、ライジアは推測して彼の脱いだ服を手に持った。
じろじろとあからさまに観察する。
確かに顔は綺麗だし、ガタイも悪くない。
そりゃあ、農村で働く農民達の屈強な体格には負けるけど、
今まで見てきた貴族のうちでは、ダントツに健康そうな肉付きをしている。

あ、これじゃあ褒めてるばっかりだわ。もっと悪いところ見つけないと。

と、再びあら捜しを開始する彼女に、恐ろしく召使いとしての仕事に欠けていると
エルゼリオはライジアを見て思った。
フェイティシアと比べてしまっている。

「フェイティシア、今日は変じゃないか?何か、あったのか?」

その言葉にどっきりして、ライジアは思わず「うっ!」と声を漏らした。
「うっ?なにかあったんだな?」と疑い深くエルゼリオはライジアを見つめるが
どうしても口をつぐんで、首を横に振る彼女にエルゼリオはげんなりする。

「召使いの間のことは、オレもよっぽどそばにいないとわからないからな。
お前、何かフェイティシアにあったら教えてくれ。
もう泣くのを見たくはないんだ。」

と言ってうつむいてコートを羽織る作業を淡々と進める彼に、ライジアは目をぱちくりさせた。

主人っていうのは、こんなに召使いのことを気遣うものなのだろうか。

覗き見をするように、彼の様子を見つめてしまう。
そんなことで彼の気持ちがわかればそれに越したことはないが、
一向にライジアにはわからない。

「泣かせたんですか?」
と聞いてみると、エルゼリオはいやな部分を付かれたような顔をした。
「そんなつもりはなかったんだぞ。」
あわてて弁解をする。
「それは、泣いた女にいつも男が言うセリフですよ!」
とイラついて地団駄を踏みながらライジアは叫んだ。

只でさえ風邪をひいて熱もあるフェイティシアを傷つけたのだ!

そう思うと、もうライジアの中では禁固刑100年に値する罪状を、
この場を法廷にして無理やり読んでやりたい気分だった。

「オレだって、フェイティシアが笑っていればそれだけで幸せだと思うんだ。」

お前もそうだろう?と少し同意を含んだ風に、彼はライジアに言った。
その言葉のニュアンスに、ライジアは怒りをおさめる。
自分が考えていることと、同じことをこの目の前の男は言っていた。

考えてみれば、彼女に恩がある状況は二人とも同じだった。
エルゼリオの幼い日をそばに仕えて過ごしてきたフェイティシア。
ライジアの幼い日をそばで支えて指導してきたフェイティシア。
そして今まで、二人は彼女のそばにいて彼女を見てきた。
有る意味同じ境遇といえた。
そして、
彼の表情は、本当にどうしようもない状況に置かれて微笑んでいるように見えた。

ライジアにはない感情。
いや、あるけれど行き過ぎずもてあますことのない感情が
その表情からこぼれ落ちていた。

すき、なんだ。

とライジアは思った。
エルゼリオは彼女を愛している。それにライジアは気づいてしまっていた。
呆然とせずにはいられない。
確かに、二人を並べれば恋人同士かそれ以上に見える。
二人とも綺麗で、どうしようもなく魅惑的で。
けれどそれは、二人ともいい容姿をしているからと思っていた。

ちがう。

二人は、たぶんお互い惹かれあっていて。
けれど立場は絶望的で。どうしようもなくて。
その雰囲気が・・・。
フェイティシアさまは、貴族・・・だったっけ?違う・・・でも。
正妻にできるような立場にはない気がするし。

妄想を飛躍させたライジアの横を、エルゼリオは通り過ぎようとした。

「本当に幸せにできると思ってるんですか!!」

その問いに、淡く微笑んで彼は「ああ。」と答えた。
堂々と、物怖じもせずに。
ライジアの心が躍った。
できることなら二人の手助けをしたい!
二人のことを、応援していたい。

玄関へと向かう彼の後を、彼女は小走りに追っていった。







いつも通りに、屋敷の人々が全て集まり彼を見送る。
召使達が列を綺麗につくり、執事とフェイティシアが最も扉に近いところで待っていた。
扉は開け放たれている。
夜風が冷たくフェイティシアにあたるのを、叔父のロイドはなるべく避けようと
自分の横に彼女を立たせていた。

フェイティシアはもう、歩くことができなくなりそうな気配がある。
顔はひどく白くなっていた。
赤みを通り越している。
視界もぼんやりとして定まらない。

がんばらなくては。

と、彼女は微笑を作った。
階段から彼が降りてくる音がして、顔を上げるともう目の前にいる。
外套を羽織って、しっかりとした威厳をもって彼が立っていた。

「いってらっしゃいませ。」

その言葉を出すまでに、酷く時間がかかった気がした。
ずっと、このままでいられたらいいのに。
彼を見つめたままで。

「ああ。」

子供のころと同じように「うん。」と言わずに答えた彼に、彼女は満足して微笑んだ。
もう、私の支えは必要ではなくなるほど大人になったのだと。
視界のぼやけたフェイティシアに、そっと口だけで「あとで。」といった
エルゼリオの心を、彼女は見落としていた。
ただ、彼の後姿を見送りながら微笑み続けた。

扉が、閉まった。

その瞬間、彼女はその場に崩れ落ちた。







悲鳴が聞こえた気がした。
閉まった屋敷の大扉を見つめて、エルゼリオは扉への階段を駆け上がる。
まさか、そんなことはないだろうという不安がかすめた。
きっと悲鳴は、誰かが何かを落として
あるいはあの新しい召使いが、何かドジを踏んだのかもしれない。
きっと彼が入っていったら笑い声がして、
フェイティシアが微笑んでこう言うのだ。

「まあ、エルゼリオさま。戻ってくるほどのことはなかったのに。
どうぞ、お気を止めずにいってらっしゃいませ。」と。

扉を強引に開く。
目の前に入ってきた光景は、
倒れたフェイティシアを支える執事と、悲鳴を上げる召使達の姿だった。


目の前が、真っ暗になるのかと思った。


駆け寄り走るまでの時間すら、酷く長く感じられた。
「フェイティシア!」といつのまにか叫んでいたことも、次の瞬間には忘れてしまった。

「フェイティシア!!フェイティシアっ!」
駆け寄って頬に触れると、ぞっとするほどの熱がある。
真っ青な肌をした彼女は、意識が無いようだった。
「部屋へ運べ!エルゼリオ様。どうかお気になさらず。」
執事が冷静に肩に触れるが、エルゼリオは呆然と彼女の体を抱いたままでいた。
体が弱いのに。
死・・・?
ぞくりとする冷たいものが、彼の背中を撫でた。

「オレが運ぶ。俺が!」
「だめです!!」

エルゼリオの悲痛な叫びを拒絶するように、ライジアが割って入った。
「エルゼリオ様。どうぞこの場は私に任せてください!
貴方に心労をかけたくないために苦労した、フェイティシアさまのことを思うなら!」
「・・・!お前はっ!」
知っていたのかと、憎しみを込めて見つめるエルゼリオの視線を避けず
ライジアは彼を見つめ返した。
「責めは受けます!だけど、貴方は今やらなきゃいけないことがあるはずでしょ!
フェイティシアさまのことを思うなら、今日の仕事は絶対に成功させなきゃだめです!」
「!・・・。」

彼の腕の中から、フェイティシアを奪い抱えていく召使い達を見つめて
エルゼリオはもう一度ライジアを睨みつけると、叫んだ。
「お前、フェイティシアにもしものことがあってみろ!殺すだけじゃ済まさんからな!」
ライジアは扉へと向かうエルゼリオを見つめて、元気よく叫んだ。

「そのときは何回でも殺される覚悟です!」
と。







馬車の中で、彼はどうしようもない震えを止めようと必死になっていた。
フェイティシアのことを考えると、感情を何かにぶつけたくて仕方がない。
イライラする。
はやく、仕事を終わらせて帰らねばならない。

絶対に成功させた後で。

「大丈夫。できます。」と、フェイティシアは彼が不安になったときよく言ったものだった。
「最初から、出来る力をもっているから、任されたのでしょう?なら、大丈夫。」
その微笑を思い出し、彼は深呼吸をした。
この仕事を成功させれば、彼女は花の様な微笑を見せるだろう。
誇らしげに、彼を見つめて・・・そして。
そのときに、まだもらっていない大切なものを・・・。

あの微笑をもう一度見るために。


夜の黒味を帯びた空気に反して、向かう城は華やかな光を帯びている
彼はいつの間にかまっすぐに前を見つめると、目的地へと向かって馬車を走らせていた。









へつづく

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